大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和25年(う)2869号 判決

被告人

森田治三郎

外一名

主文

被告人森田治三郎の控訴を棄却する。

原判決中被告人細井栄一に対する部分を破棄する。

被告人細井栄一を懲役三年に処する。

理由

弁護人宮坂興静の控訴趣意書第一点について。

被告人森田治三郎、同細井栄一、原審相被告人岩野実等が共謀の上、強盜を働いたという事実につき夫々別に起訴され何れも原裁判所に同時に繋属するに至つたこと、原裁判所は被告人森田治三郎に関する事件につき昭和二十四年十一月二十六日第一回公判を開きその後昭和二十五年三月八日第六回公判に至り検察官の申請に基き右岩野実及び細井栄一を証人として訊問することを決定し同年四月八日第八回公判において訊問を遂げ、更にその後同年五月二十四日第十回公判において右岩野、細井両名に対する弁論を被告人森田に対する弁論と併合した上、審理を終結し右三名に対し、何れも強盜の共同正犯として有罪の判決をするに至つたこと、その間被告人森田は公訴事実を否認し、岩野及び細井に対する各被告事件はこれより先昭和二十五年三月八日の各第一回公判で弁論を併合され、その後併合されたまま審理され、右両名共公訴事実は相違ない旨の陳述をし、証拠書類の証拠調があり、その後同月二十五日の第二回公判において被告人等の公訴事実に関する詳細な陳述があつた後、同年五月二十四日前記の如く被告人森田に対する被告事件の弁論と併合されるに至つたものであることはいずれも記録に徴し明らかである。論旨は以上の如き経緯に鑑みると原審は右岩野、細井の公判において、被害者に対する供述調書や右岩野、細井の自白調書の証拠調をしたのであり、被告人森田に対する事件の審理につき証人として右岩野、細井を訊間する前に証言の内容も被害者の供述調書の内容も知つていて予断を抱いていたのであるから、裁判官をして事件につき予断を抱かせまいとする刑事訴訟法の精神は蹂躪されていると主張するのであるが、共犯関係にある数人の被告人が各別に起訴された結果同一裁判所に同時に繋属するに至るのは通常の現象であり、かかる場合において審理が遅速を伴うことは避け得られないから、裁判所において、そのうちのある事件の審理が進まないうちに他の事件の審理の結果右共犯事件全体についての知識を得るに至る場合があることは怪しむに足りない。而して裁判所はかかる場合において必要に応じ、一事件の被告人を他の事件の証人として供述させ、もつて罪証に供し得るのであり、これを不法視すべき根拠はなく、これをもつて裁判官が予断を抱いたから不法であると非難することはできないのである。即ち裁判所はかかる共犯関係にある数個の事件を常に併合して審理すべきことを要求されるものではないのみならず、仮に共犯関係にある数人の被告人が同一事件として一度に起訴されたとしても裁判所は適当と認めるときは、当事者の請求により、または職権をもつて弁論を分離し得べく、場合によつては必ず分離しなければならない場合すらあることは、刑事訴訟法第三百十三條、同規則第二百十條の明定するところである。即ち以上の論旨は理由がない。

(註 本件は擬律錯誤により一部破棄自判)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例